コラム

7. ヘルスケアはこれからも儲かるビジネスか

※下記コラムは2016年~2017年当時、株式会社玄海インベストメントアドバイザー在職時に公開していたものです。記事中の制度内容や統計数値等は当時情報のままですので、現在とは異なる場合があります。


投資物件の見立てとして、一般的にレジデンス系が低利回り&ローリスク、商業施設系が高利回り&ハイリスク商品と言われてる中、ヘルスケアはレジデンスよりも収益性が高く、且つ商業施設ほどテナントの入れ替えや撤退リスクが少ないのが特徴です。近年、本セクターに注目が集まる理由も、こうした事業安定性が評価されている結果でしょう。

 

では、現在でもヘルスケアが高収益体質かというと誤解があります。資料が古くなりますが、厚労省が2014年に公開した「平成26年介護事業経営実態調査」を受けて、財政審では“介護サービス全体の平均収支差率8%で一般の中小企業の水準を大幅に上回る”“中小企業並みの収支差となる▲6%程度の適正化が必要”との声が上がりました。当時、「介護事業は儲け過ぎではないか」という指摘が経済界からもありました。さらに同時期には社会福祉法人の内部留保の問題が取り上げられ、報酬改定の議論は益々現実味を帯びていきます。その結果、昨年の報酬改定では居宅介護支援を除く全事業で基本報酬が減額されました。改定率は処遇改善分を除くと-4.48%と厳しい内容となったのは記憶に新しいところです。 ※収支差率=(収入―費用)/収入×100%(報酬改定の影響が気になるところですが、本調査は3年周期でまとまられ、次回は平成29年度の公開となります)

 

ところで、この介護事業経営実態調査では事業ごとに収支内容が公開されています。地域区分、事業主体、利用人数別に集計され、その内容はかなり細分化されています。例えば訪問介護の全体の収支差率は全体で7.4%ですが、地域区分の上下差は最大で6.5ポイント、経営主体別で5.4ポイントの差が見られ、地域や事業形態によって収支差に大きな開きが生じています。

実利用人数が多い事業所ほどスケールメリットが期待でき、複数拠点を持つ大手事業者の場合は事務・営業・人材管理等の業務を本社機能に束ねる事でこれら経費の圧縮が可能です。その点、小規模事業所や単体事業者にとって風当りは一層厳しくなりました。近年の人材難を踏まえると、介護スタッフの人件費を下げることは現実的ではなく、利益率の更なる圧縮に向かわざるを得ないのが現状です(収支差が多業種よりも高い理由のひとつは、介護業界の人件費の低さ)。今後、ヘルスケアの業界再編が進むと言われていますが、既に地方の小規模・単体事業所の淘汰やM&Aはじわりじわりと進んでいるようです。

 

冒頭でヘルスケアの事業安定性について触れましたが、本セクターで社会的要請・個々の利用ニーズが今後も増加していくことは間違いありません。

但し、これまでのように採算性の高さに依拠した評価は問題です。前述の報酬改定はもちろん、今後は要介護度の引き上げやサービス削減が段階的に進むことが予想されます。現在、介護報酬収入に過分に依存している事業所は、将来を見据えて収支構造や商品の見直しは避けられないでしょう。

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