コラム

13. 職場のメンタルヘルス対策について

※下記コラムは2016年~2017年当時、株式会社玄海インベストメントアドバイザー在職時に公開していたものです。記事中の制度内容や統計数値等は当時情報のままですので、現在とは異なる場合があります。


労働力調査年報によると、我が国の労働力人口は3年連続の増加ですが完全失業率は3.4%と5年連続で減少。さらに2015年の正規職員は8年ぶりに増加傾向が見られます。また、就業者を産業別でみると、医療・福祉分野の就業者の増加が顕著で、前年より27万人も増加したとうデータもあります。

こうして見ると、現在、求職者にとって就職機会は向上しているように見えます(事実、介護業界でも人材不足を訴える企業や事業所は多い)。

 

一方、労働環境の面で就労者の精神保健分野の課題は大きいと言えます。最たる課題は勤務問題を動機とした自殺者の存在でしょう。

警察庁の公開場情報によると、自殺者総数は2.5万人で現在は3年連続で減少基調にあります。これを動機別にみると、勤務問題を理由とした自殺が毎年2,500人前後で発生しており、この割合は微増傾向。平成22年では全体の6.2%でしたが、平成26年には7%まで上昇しています。これらの背景には、能力主義の採用や雇用体制の変化、前述のとおり人材不足によって1人の業務負担が増えている事等が考えられます。専門治療が必要な人のニーズを早い段階で入手し、適切な対応を図ることで自殺という最悪の結果を未然に防ぐ事が喫緊の課題と言えそうです。

 

これらメンタルヘルス対策を具体的に進める上で、次の3つの対策が必要と言われています。

①職場環境改善、②教育・研修、③相談窓口の設置です。

そのうち、職場環境改善では、平成27年から導入されたストレスチェックの担う役割が大きいでしょう。これまでの職場環境のテーマは、事業採算性やISOに代表されるように効果的に作業が行われるための作業・環境条件の改善が主でした。ストレスチェックでは、事業者は労働者に医師による検査を受けさせ、本人の希望があれば医師による面接指導の受診や、医師の意見を勘案して作業所の転換や労働時間の短縮等措置を講じます。職場環境を採算制、効率性の視点だけでなく、精神保健の視点から労働者の健康維持を保つ事が求められるようになりました。

 

課題としては本制度が労働者数50名未満の事業所は「努力義務」という点です。最も職場環境の改善ニーズが高いであろう中小企業で本制度の導入が進まない懸念が残ります。また、検査結果は本人の承諾無しに事業者が取得することが禁じられています。個人のプライバシーの保護や、事業者が労働者の選別や差別とならないよう注意が必要な一方、事業者が社内の実態把握ができない難しさも感じます。本分野の推進には、公平な立場で介入が可能な第三者(ソーシャルワーカー等)の期待が大きいでしょう。

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