コラム

【失敗しない老人ホームの選び方】Ⅲ.入居してから後悔しないために (2)利用料

2)利用料

前払い方式、月払い方式のどちらが良いか

いわゆる「入居一時金」のような、入居時にまとまった金額が必要となるのは、有料老人ホームとサ高住です(一部でケアハウス)。「入居一時金」を入居時に支払えば、その後の追加料金は必要無いという設定が一般的です。サ高住の場合は「敷金」を徴収しているホームもありますが、一時金を設定するホームはほとんどありません。

近年は、有料老人ホームもサ高住も月払い方式が増えていますが、一時金が設定されていた場合は次の点に注意します。

 

・一時金は終身利用を想定したものか、単なる一括払いか。

※一般的に普及している終身利用型のほか、5年分の家賃を一括で支払う「前払い金」を設定し、6年目以降は再度一時金を支払う形態もあります。一時金の性格が、追加料金無しで終身まで賄われる設定か、単に一定年数の家賃をまとめて払うだけかを理解しておきましょう。

 

・入居時費用に使途不明金が含まれているか

※現在は法律で「権利金」「建設協力金」のような名目では一時金を徴収できません。入居時の料金に不明な金額が設定されていれば必ず確認をしましょう。

 

一時金の初期償却を設定しているホームはどうか

入居一時金はあくまでも「預かり金」ですので、在居期間が短い場合(事業者が定める償却期間未満)には、未入居分の残金が返金されます。但し、入居一時金を支払った時に、その場で居住期間に関係なく差し引かれる(償却)金額が、いわゆる「初期償却」と言われるものです。一般的に一時金の2~3割程度が設定されています。

国は初期償却を違法としていませんが、東京都は不適格ホームとして原則、認めていません(違法ではありません)。初期償却分は途中退去しても返金されないので(短期解約特例制度の90日間を除く)、事前に確認をしておきましょう。

・初期償却は違法か。

※老人ホームの重要事項説明書末尾には、東京都のチェック表があり、初期償却を設定しているホームは本部分について「不適格」に〇印が記載されています。

 

あまりに安すぎる月額費

私が知っているサ高住では、九州で食費1万円と破格のホームがありました。ヒアリングしたところ、社長の意向で「入居者の負担を軽減したい強い思い」との回答でしたが、あまりに非現実的な価格設定に驚かされました。このように、入居者募集を促進させるために、極端に価格が安いホームがたまに見受けられますが、こうしたホームは要注意です。

 

赤字で運営はできませんから、どこかで必ず費用採算の帳尻を合わせているはずです。多いのは、自社の介護事業所から独占的に介護サービスを利用させ、区分限度額(在宅サービスが利用できる範囲)の目一杯までサービスを提供することで、過分な介護報酬収入を得ているケースです。

こうしたホームは、家賃や管理費、食費等もどんぶり勘定で見ているため、経営的にも不安です。競合ホームと比べて価格相場が極端に低い場合は、必ず安い理由を聞きましょう。

 

また、部屋が埋まるからと、手付金の支払いを急がせる事業者も問題ありです。その場合は、あっさり諦めて時間の余裕をもって選んだ方が良いでしょう。

 


>>余裕があったら読んで欲しいプロの解説

初期償却は事業者にとっては安定稼働に達するまでの収入源として大きなメリットがあります。初期償却を無くすためには、毎年の償却額を増やすため一時金総額が高くなることは避けられません。こうした事業者側の事情も知っておくと良いでしょう。

 

そもそも、初期償却導入の考え方は、介護保険制度が導入される以前の老人ホームの商品性と関わりがあります。80~90年代台にかけて老人ホームの第一次ブームが起こりますが、これらのほとんどが早期リタイヤした会社役員等、富裕層向けの高額な自立ホームです。当時の入居時年齢は平均で60代後半の元気な高齢者の方々。入居期間が長期に渡るため、早期に退去される方もいれば、償却期間を超えても入居される方もいます(償却期間を超えると家賃相当額の収入が無くなる)。こうした自立型ホームに特有の入退去動態に対して、全入居者から一時金の一定額を前取りすることで、安定収入を担保してきました。

 

さらに、当時は豪華な共用施設が売りのホームがほとんどでしたから、金融機関からの膨大な借入金を早期に返済するためには、開設後数年間の売上収入を高く見積もる必要がありました(一時金はあくまでも預かり金という費目で扱われるため、償却期間に応じて損益で収入計上しますが、それまでは会計上、キャッシュフローの預かり金として処理されます)。

                      ◇

現在、供給されている老人ホームの多くが要介護者向けですが、初期償却の考え方は前述の自立者向けホームの経緯をそのまま踏襲しているに過ぎません。入居期間は概ね5年以内ですし、長期入居で生じる”長生きリスク“は要介護者向けホームには馴染まないと言えます(初期償却を設定するための説得力は弱いと言わざるを得ません)。

 

初期償却を設定しているホームが即ち「駄目なホーム」とは言いません。実際には、大手運営会社のホームで、初期償却を徴収していても人気ホームはたくさん存在します。設定の有無は数あるチェックポイントの一つとして注意しておきましょう。


(2022年8月加筆)

終身利用の場合、想定居住期間を超えて入居する家賃相当額はあらかじめシミュレーションによって、入居一時金額に含むケースが一般的です(本試算は運営会社によって異なります)。一時金の算定根拠の資料は入居検討者に開示してくれます。

なお、2017年に消費者団体から「初期償却」の返還義務を問う訴訟が行われていましたが、東京地裁で請求棄却、その後、高裁、最高裁で上告棄却及び上告審不受理の決定を受けています。

適格消費者団体

 

消費者団体の指摘にあるように、過去に入居金、返還金に関するトラブルや訴訟に至るケースは珍しくなく、業界内外で注視すべき問題です。

一方で、住宅や金融資産というストックを保有している高齢者にとって、まとまった入居費用を前払金として一括支払いする方法は非常に合理的であり、高齢者の経済環境に合致した支払い方式と言えます。

これら入居金に関する問題が訴訟やメディアで取り上げられるようになってからは、前払金方式=「悪」の印象が持たれることを懸念して、事業者自身も倦厭するようになっています。

入居者の経済事情に応じて、支払い方法が「複数のパターン」から「選べる」ことが理想です。

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