コラム

17. サ高住の廃業数125ヶ所は本当?

※下記コラムは2016年~2017年当時、株式会社玄海インベストメントアドバイザー在職時に公開していたものです。記事中の制度内容や統計数値等は当時情報のままですので、現在とは異なる場合があります。


7月12日付の読売新聞が取り上げた「サ高住の廃業」に関するニュースは、センセーショナルな記事として業界の話題を集めました。

記事内容は、2011~15年度の5年間で全国125所のサ高住が倒産などで廃業したというものです。

今年3月にはNHKの「クローズアップ現代」で、サ高住の廃業・登録取消の申請数が全国263件にも及ぶという報道がなされました。当番組では特養の空き室の問題を取り上げながら、高齢者住まいの供給と利用ニーズがマッチしていない点を掘り下げた内容でした。

 

さて、現在、冒頭の読売新聞が公開した廃業数が独り歩きしている感がありますので、補足をしておきます。

そもそも、国交省では例年、各都道府県の情報から廃業・登録数取消の確認を行っているため、これが初めての調査では無いという事。今回、廃業物件を稼働状況別に分類した事が初めての試みと言えるようです。その内訳は下記のとおりです。

「入居開始前に廃業」64ヶ所

「事業者が替わって存続したり有料老人ホームになったりした」34ヶ所

「入居者がいて廃業」27ヶ所

サ高住は着工前にサ高住の登録申請を行うため、登録は行ったがその後の補助申請がうまくいかなかった、その後の事業計画が頓挫したというケースは考えられます。それが「入居開始前に廃業」に該当し、実際に建物竣工後に稼働実績が無い物件は存在しますが、レアケースと思われます。

 

続いて「事業者が替わって存続したり有料老人ホームになったりした」ケースですが、本来、サ高住の登録を行っていれば有料老人ホームの届出は必要ありません。但し、営業集客上、「有料老人ホーム」の看板の方が高齢者やケアマネジャー等にアピールしやすいという理由から、建設時の補助金は“サ高住”として受けておき、その後“有料老人ホーム”として運営するケースは珍しくありません。

 

最後に、最も廃業理由として深刻なのが「入居者がいて廃業」したケースです。前述の2パターンは稼働実績が無いケースや施設類型を変更しただけのものも含まれ、そもそも「廃業」という表現が相応しいか疑問が残ります。一方、最後のケースは既入居者が次の住み替え場所を新たに探さなければならず、入居者や家族の精神的・経済的負担は計り知れません。

 

2015年度末のサ高住登録数は6,102ヶ所です。

「入居者がいて廃業」した27ヶ所はこのうち僅か0.4%で、他の業種と比べると低い結果とも言えるでしょう。

しかし、これまでの有料老人ホームの世界では“一度始めたら、途中で辞められない”のが介護施設・住宅事業だという認識が業界の暗黙の了解でした。「事業撤退」「倒産」など、およそ考えられない事態です。

事業撤退や倒産はサ高住には限りませんが、サ高住の異業種の事業参入が増えたことで供給数を一気に増やしたという背景から、同時に事業撤退のリスクは無視できなくなりました。

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